2010年6月1日火曜日

独白。1

迎えは無い。
少ない荷物をバックパックに詰めた。

 去年の今頃、僕はとある施設を後にした。三ヶ月ほど過ごし、妙な居心地の良さを感じ始めてしまっていた心とからだに言い聞かせた。
「もう、二度と来るまい、こんなとこ」僕は一度死んだのだ。

 あたまが焼ける様に熱い。なにかべっとりとした意識の中で、よく知っている顔が僕を覗き込んでいる。大きな声で何やら言っているが、さっきから耳鳴りが酷くて聞き取れない。父親だ。後ろの方で泣いている母の姿がぼんやりとだが見える。
「○○さ~ん!解りますか~!?わたしの指を握り返して下さ~い!」
そんな、聞いた事のある様な台詞を耳元で叫ぶ、青いろの服の若い男。
青いろの男の出で立ちと、さっきから部屋の灯りにしては眩しすぎるライトと、何やら慌ただしく動き回るいくつかの人の気配に、そこがどうやら、病院の診察台の上だという事を感じ取ることが出来た。まるで、他人事の様に。焼き付いた頭で。

 どれくらい経っただろうか、誰かが話す声で目が覚めた。相変わらず意識はべっとりとしたままだった。
意識の戻った僕に母が何事か話し掛けてくるが、頭が、体がいう事をきかない。どうやら、強い薬を打たれているようだった。
「意識も戻った様ですし、集中室から移しましょう」と話す白い男。僕はまだ状況を把握していなかったし、家へ帰れるものだとばかり思っていた。
 「離せっ!大丈夫だよ!帰れるて言ってんだろうが!」「落ち着いて下さい!」「~用意して!」
僕は華奢だが、わりと大男なので暴れると大変なのだろう。4、5人の白と青の男女に押さえつけられながら、「はい、チクッとしますよ」「暴れないで下さい」よくよく見ると注射どころか、体中に透明のチューブが突き刺さっている。白い男は、暴れる僕の腕にまるで暗殺者の様な手際の良さで針を刺さす。ガラス管の中の透明な液体があっという間に空になっていく。

その針が抜かれるか抜かれまいかの刹那、僕の意識は再び遠くへ飛んでった。

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